東京国際映画祭コンペティション作品『テセウスの船』のアーナンド・ガーンディー監督に単独インタビュー

21日(日)、東京国際映画祭コンペティション作品『テセウスの船』のアーナンド・ガーンディー監督、アイーダ・エル・カーシフさんに、アジアエンタメLIFEでは単独インタビューをさせていただきました。

 

製薬会社の動物実験に抗議する一方、自らが病に倒れ薬に頼らざるを得なくなる男性。薬を拒否し、衰弱していくが…。人間の選択した行為と、その行為が内包するパラドックスをテーマにムンバイを舞台にした3つの物語。巧みなストーリーテリングと深い人間洞察が刺激的。

 

船の部品を全部交換したとして、それは前と同じ船と呼べるであろうか? というのがギリシャ神話に伝わる「テセウスの船」のパラドックスである。本作では、人間の体の部品たる臓器の移植を巡って、パラドックスとアイデンティティの問題が考察される。ガーンディー監督は2本の短編で既にカルト的な注目を集めており、名匠シェカール・カプール監督も絶賛のコメントを寄せている。哲学的で内省的な側面を持ちながら、鮮烈なビジュアルイメージと豊潤な物語世界を併せ持つ、驚くべき監督長編デビュー作品である。

 

Q:インド映画は踊るシーンが多い作品が定番ですが、今回の『テセウスの船』を作ろうと思った経緯は?

 

アーナンド・ガーンディー監督:「この作品は、典型的なインド映画に対する私の反応だったり、リアクションではないのですが、あくまでも私自身が個人的に好きな映画を作りたいと思ったからです」

 

 

Q:キャスティングで苦労した点は?

 

ガーンディー監督:「通常の(インド映画の)俳優さんは歌ったり踊ったりするので、演技だけでなく他のものを持っている俳優さん(ビジュアリー)で、何か他の仕事をしていたり、自分で一つのアートをクリエイトしている人達なのです。何か演技の他に持っている人達にお願いしました」

 

Q:アイーダさんは、オファーを受けたときの気持ちは?

 

アイーダ:「とにかく私は超うれしかったです。遊びでムンバイに行ってて、監督と会ったりして、(女優ではなく)お手伝いをしていたのです。男優さんと台本の読みあわせで女性のセリフを読んで相手をするというお手伝いをしていたのです。そんなことをしていたら、監督から”君も出てみないか?”といわれて、大変うれしかったです。そもそも私は監督の前作が好きで、それがきっかけで友人になったのです。インドのインディペンデンス作品は、非常に面白い作品が多いので、映画に出演できたことは、とてもうれしいことです」

 

 

Q:映像も音楽も神秘的な点があり、登場人物の心情が映像や音楽だけでなく、セリフや動作でも表現されていて、考え深い作品だと思いました。独自性のある映像・音楽・セリフ・動作を作品に取り入れていく上で、苦労された点はありましたか?

 

ガーンディー監督:「そう言っていただき、大変うれしく思います。なぜならば、いろんな要素が一つにまとまることを願って作りました。映画を作っていますと、自分自身は巨大なキャンパスに絵を描いていますので、小さい部分しか見えない。絵画になった時に、果たしてそれがどうなるのかということを、ちゃんとブレンドすることが不安なのですね。結果的にそう言っていただいて、大変うれしいです。このような映画の場合、大変キャラクターも多いです。そして、いろんな物語が織り込まれているので、大変なわけなのです。一つ良かったことは、今回スタッフが少なく最小限の人数で撮影しました。俳優達もとても中が良かったのです。ほとんどは私の家で、全員が寝泊りして撮影をしていたのです。和気藹々と作り手側も一致団結して作ったということが、今おっしゃってくれたシンクロされているところに繋がっているのではないでしょうか」

 

記者:家族的ですね。

 

 

ガーンディー監督:「みんな仲良くファミリーとして作ったのですが、いろいろ考えると資金がないということは大変なことです。今は他の作品をプロデュースしているのですけれど、それは資金が豊富なので、誰もけんかはしませんし、いがみ合ったりもしていません。哀しいけれど現実はお金で解決してしまうものです。『テセウスの船』は、資金が少なかったもので、何か工夫をして乗り越えなければ、お金で解決できなかったわけで、とてもつらいことです」

 

Q:アイーダさんは、演じる上で苦労した点はありましたか?

 

アイーダ:「私は女優をしていたのではないので、演技をするということは、自分の安らぎを感じるゾーンから外にでなければならない。盲目の役でしたので、そういった意味でコンタクトレンズを付けなければならなかったり・・・嫌でしたね」と苦笑い。「私は通常は監督をしていますので、常に全てをコントロールできる。今回女優ということですと全部身を委ねなければならない。それも自分では抵抗感があったのです。他には、みんなで寝泊りをしていましたが、私はエジプト人で祖国で仕事をしている時は、常に帰る家があるので、気分転換ができるのです。今回は、インドという祖国でもない、家もない、寝泊りするところと言えば、アパートをひとつ賃りたのです。製作部屋とみんなが食事する部屋、そして撮影する部屋・・・全部が一緒だったから、喧嘩してもどこか出て行くところがなかったので・・・(笑)盲目役なので、”街で歩いてそこの人に触って”といわれたのですが、見ず知らずの人に触れるのに抵抗がありました。触れるということは親密なことになるので、自分の祖国でもないし、それをしなければならないことが一番辛かったです」

 

ガーンディー監督:「孤独感は必要以上にイライラしてくるから、それもとても辛かった。お腹を空かせると絆ができます。実際の撮影は18日間、16日間撮影をしてリハーサルに1ヶ月、そして撮影で1ヶ月・・・一年後に2日間撮影しました。声のダビングやラストシーンの撮影をしました。実は、一年後に帰ってきた彼女は、別人のように変わっていたのです。これはエジプトの革命があり、それを彼女は経験したからと言っています。子供から大人の女性に変化していたと言ってもいいくらいでした」

そして、思い出したように「面白い裏話があるのですが・・・今までのインタビューでは誰にも話していないのですが・・・1年後の最後のスケジュールを立てるときに、彼女と連絡が取れなくて、Facebookを見たら名前が友達リストにのっていないのです。彼女のページにいってみたら、”アイーダの釈放に署名してください”と書いてあり、刑務所にでも入っているのかと思いビックリしました。どうやら1日だけ留置所に入ったのです。逮捕される事前の段階での留置所でした。結果、刑務所には入らなかったのですが、たまたまそんな時にFacebookを見たと言う偶然ですが(笑)。とても大事な友達が留置所に入っているのに、僕が思ったことは”え~彼女と連絡がつかなかったら、僕の映画は終わらないじゃない”と思ったのです。(爆笑)」

 

 

Q:作品には臓器移植ですとか出てきますが、監督は主人公の立場だったら、薬を拒否しますか?

 

ガーンディー監督:「それは僕にとっても大きなジレンマでした。正直いいますと生存を選びます。ただ・・・いろいろ考えますと僕自身はベジタリアンなのです。それはなぜかというと、全ての動物、生命は人間と同じいように扱わなければならないのです。そうとはいえ、100年間続いてきた動物実験のおかげで、人命を救うことができるようになってきた。それを考えると悩みますが・・・僕は生存を選ぶと思います。僕は法律というのは、白黒はっきりしていると思います。ある程度猶予のある文言が必要だと思うのです。例えば、動物虐待は絶対ダメとかではなくて、動物実験が虐待とみなされるのであれば、我々人間の延命できるような研究のための最小限のものは許されるという文言になるべきだと思います」

 

監督にプロフィールに書いてあった”魔術に興味がある”について聞いてみると、マジックに興味があるようでした。魔法にも興味があるというな面も。

 

(取材:野地 理絵)

 

 

東京国際映画祭 http://2012.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=23  

(上映は10/22 14:1517:08) 

 

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