舞台「悪霊-下女の恋-」公開舞台稽古

松尾スズキ作・演出の舞台『悪霊―下女の恋―』が、1997年の初演2001年の再演以来、12年ぶりに上演。929日、東京・本多劇場で幕を開ける。今回も広岡由里子以外のキャストを一新。ナイロン100℃の三宅弘城、賀来賢人、さらに大人計画の平岩紙が出演する。

タケヒコ(三宅)とハチマン(賀来)はお笑い芸人。売れない時代が長く続いたが、ついにふたりのレギュラー番組が決定する。その収録前日。タケヒコが母・キメ(広岡)とふたり暮らしをしているウネハラ家に、ハチマンとタケヒコの婚約者であるナミエ(平岩)がやって来る。ナミエの出現により微妙なズレが生じ始めた母と子、そして友人同士。やがて不幸な事故が、ウネハラ家を襲い……。(写真:引地信彦

 

血のつながりを巡る悲喜劇である。登場する4人の底にうごめく、さまざまな負の感情。お互いに思うことはあれども、それを口に出すことはない。そんなドロドロの家族ドラマでありながら、決して重々しくならないのは、やはり松尾が随所に盛り込んだ“笑い”にある。そして人は、本当にひどい、どうしようもない状況に陥った時にこそ、笑ってしまうものである。

 

意外にも松尾作品への参加は初という三宅は、グッと押さえた印象。近年“いい人”という役どころが多かったが、本作ではハチマンに対する嫉妬、母へのマザコン的愛、かつての同級生・井上との奇妙な関係性など、屈折した嫌味な男をじっくりと見せる。一方、常にテンション高く、場を盛り上げようとするのは、賀来演じるハチマン。それがかわいくもあり、またズルくもあるという人物だが、賀来はそのバランス感覚が非常にいい。観客を惹きつける華もあり、本作を通し俳優として大きく成長を遂げた。

(写真:引地信彦


 

ナミエ役の平岩が見せたのは、女性が持つ優しさ、エロさ、狡猾さ、すべてを内包したようなキャラクター。しかも笑いどころもしっかり押さえ、平岩という女優の底力を見せつけた。そして母のキメと家政婦のホキの2役を演じたのは、初演、再演に引き続き広岡。広岡にしか出せない空気感、そしてある種の不気味さは、『悪霊』という作品そのもの。そして彼女の美声とダンス()も、やはり本作に欠かせない要素のようである。

 

初演から16年を数えたが、作品が色褪せたという印象はまったく受けない。その理由のひとつは、かたちはいびつであれ、“家族”という普遍的な題材を扱っている点。そして改めて松尾脚本の面白さに唸らされた、贅沢であっという間の2時間10分であった。

 

(取材・文:野上瑠美子)

 

出演:三宅弘城、賀来賢人、平岩 紙、広岡由里子

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