入江悠監督×松江哲明監督『ウィ・アンド・アイ』公開記念トークショー

アカデミー脚本賞を受賞した名作『エターナル・サンシャイン』や、ハリウッド映画への風刺と愛を込めて製作された快作『僕らのミライへ逆回転』を世に放った鬼才・ミシェル・ゴンドリーが、これまでにないパーソナルな視点を打ち出した映画『ウィ・アンド・アイ』が4月27日(土)より公開。

この公開を記念して、ゴンドリー監督同様、独自の世界観で日本映画界に新風を巻き起こし続ける入江悠監督と松江哲明監督のトークイベントを開催した。

(C)2012Next Stop Production, LLC 

 

MC:まずは映画を観た感想を教えてください。

 

入江:昔、松江さんと一緒に映画祭でNYに行ったことを思い出しました。ブロンクスにも行ったんですよ。だから懐かしいなと。世代的にはミシェル・ゴンドリーのミュージックビデオ全盛期だったので、観なければと思っていました。

松江:ミシェル・ゴンドリーの作品はこれまで全部観ています。前々作の『僕らのミライへ逆回転』が良かったのに、前作の『グリーン・ホーネット』のようなアチャーって作品もあった。そういう大きい作品を撮った反動でこういう映画を撮りたかったのかなと思いました。大きい作品を撮った後は、もうそっちに行くのか、戻るのかっていう選択があるけれど、ミシェル・ゴンドリーはどっちもやっていくぜ!次も好きなことをやっていくぜ!という宣言のような作品なのかなと思いました。これまでで一番小さい位の作品ですよね。出ている人たちがキャッキャッしてて楽しそうでいいですよね。そういうの結構好きなんですよ。

入江:僕は、自主映画を学生時代に撮っていた時にこういう映画を自分も作っていたような気がして、周りにもそういうヤツがいっぱいいて、それを思い出してちょっと苦い気持ちになったんですよね。

松江:逆に今はこういう自主映画ってないですよね。自主映画ってまずはこういう映画を作ろうっていうアイデアが先で、『ライブテープ』も自主映画っぽいことをやっているつもりなんですけど、意外とみんながやらない。その原因は入江さんにあると思います。『SR サイタマノラッパー』のせいだと思います。

入江:あれはどっちなんですかね?自分ではわからないんですが。

松江:作っている時は『ライブテープ』のような自主映画のノリだったと思うけど、そのコマを1歩進めたと思うんですよ。今の若い人たちが目指す目標は『SR サイタマノラッパー』のような作品だからこそ、自主映画らしい自主映画が出てこなくなったと思います。

入江:でもこの作品ってすごく自主映画っぽい作品じゃないですか。車があって人が乗っていれば映画が作れるっていう。

 

MC:これは自主映画っぽくみえて、実は仕掛けも多いし、見えないところでお金もそれなりにかけているだろうし、という気がしますよね。

 

松江:そこはプロが撮る自主映画ですよね。素人が撮る自主映画はこういうことやりたいよねで終わるけど、プロが撮る自主映画はスキが無いですよね。


MC:音楽の使い方もすごくカッコイイし、回想シーンもうまい。そういう彼のセンスが鼻についたりもするんですか?

 

入江:僕はミシェル・ゴンドリーがファンタジー路線に行ったときはもうアウトなんですよ。この作品はどちらかというとドライな方だったのでよかったですね。

松江:描いていることがドライじゃないですか。楽しんでいることが実はすごく残酷で。そういうドライさがあるから鼻につくようなことはないですが、でも同じことを名前も知らない監督がやっていたらちょっと鼻につきますね。

入江:ゴンドリーだから許される部分はありますよね。

松江:携帯で撮った映像とか、どんどん入れてくるじゃないですか。ああいうのは絶対に楽しいと思うんですよ。大きいカメラじゃなくて小さいもので撮ったのものが物語に組み込まれてくるっていうのが、鼻につくようでつかないっていうか。ちゃんとやってきている歴史があるから、そこが他の監督だったら違うんだろうなと思います。この切れ味は出ないと思います。

 

MC:若い人たちにこれだけ自然に演じさせるためには、相当な監督の力量が必要なんだろなと見ていて思いました。

 

松江:演技力っていうよりはたぶんその人の声だったり、トーンだったり、他の人との兼ね合いだったり、そういうことが大きいんじゃないでしょうか。

入江:難しいですよね。来る前に『デス・プルーフ』を見直してきたんですけど、やっぱりアドリブだかどうだかわからない芝居って上手いですよね。日本でそういう芝居って少ないですよね。アメリカだとそれがイイ味になってるんだけど。

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MC:『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー傷だらけのライム』はちょっとそれっぽいですよね。

 

入江:あれはアドリブ無しなんですよ。全部決めていて、ちょっと間が気持ち悪いともう1回という感じで撮りました。この作品はどこまでやっているかわかりませんでした。リハーサルには結構時間をかけているんだと思います。日本はリハーサルの時間をほとんどとらないじゃないですか。そこが違うのかもしれませんね。

 

MC:あのバスは実際の時間軸なのかと思ったのですが、考えたらそんなことはないんですよね。

 

松江:昨年ロスに行った時に路線バスに乗ったんですが、どのバスがどこの行くのか全然わからなくて。ブロック毎に乗る人が変わってくるんですよ。だからバスに乗っているだけで街の雰囲気がわかるんです。それがこの映画のように減っていくんではなく、増えたり減ったりというバスに3時間位乗っていたんです。日本だと長い距離をバスに乗るっていうことは深夜バスでしかありえない。でもアメリカは普通の路線バスで34時間バスに乗っていることも可能だったりするんですよね。

 

MC:この作品に登場するのは高校生ですが、これくらいの世代の人で映画を撮りたいというお気持ちはありますか?

 

入江:撮りたいですね。若い人って先入観が無いというか、こうなりたいっていう手垢がついてないじゃないですか。そういう人の良さってありますよね。『サイタマノラッパー』も1作目は何もなかったんですよ、しがらみというか、誰からも注目されていなかったので。それがキャラクター化されてきて、色んな人の目が増えてくると、もうイヤだなと思っちゃうんです。そのフレッシュさが面白くてやっている部分があるんですよね。だからこの現場は楽しかっただろうなと思います。

松江:映画なんてどうでもいいと思っているくらいの子たちだからこそ楽しいんだと思います。みんなで一緒にやってその時しかない感じをグッとつかまえて。だからたとえ監督がその時はすごく怖くても、終わった瞬間に「みんなよくやった」って優しくなるんだと思います。

 

MC:そうやりながらもスクールカーストをちゃんとリサーチして、そこら辺はきちんと作り込んでいるなと思いましたね。

 

松江:入江さんはあのバスに乗っていたら誰ですか?

入江:男子校だったんですけど、人ごみが一番嫌いで、観ていてもうイライラしちゃって、絶対にこの場にはいたくないと思いました。もう絶対に無理です、だからすぐに降りますね。というか、窓から見えたら乗りませんね。

松江:僕はたぶん絵を描いている彼ですね。自分の趣味に没頭してるのに、すごくかわいい子から声をかけられてウワー、どうしよう!ってドギマギして失敗するタイプです。

 

MC:最後まで乗っているヘッドフォンをした彼は?

 

松江:絶対にナイナイナイ!ピザを買いに行く子ほど器用でもないし。 矢田部さんは誰ですか?

 

MC:なりたいのはヘッドフォンの彼ですが、絶対になれないですね。僕も男子校なので、ああいう女子との仲がいいんだか悪いんだかという感覚が全然わからない。

 

入江:もう目が会った瞬間に好きになってますよね!

松江&MCそうそうそう!!

松江:でも女子ってすごく優しい時があるんですよね。これまで話したこともないのに、急に話しかけてきて。そんなのもう告白じゃないですか!なのに次の日に学校に行くと全然相手にしてくれなくて。なんだったんだあの日は、っていうことがありました。それで女の人にそれを聞くと「そんなのなんでもないよ」って言われちゃうんですよ。だからあんまり声かけないでって思います。声かけられたら好きになっちゃうんだから。


MC:朝の電車でちょっと一瞬目が会っただけで、ああオレのこと好きなんだなって勘違いしますよね。

 

松江:結婚したらどうしようとか考えますよね。子供の名前を想像しちゃったり。

入江:今でも覚えてますよ、通学の時に目が会った子のこと。ずーっと顔を覚えてます。もうずいぶん経ちましたけどまだ覚えてますね。

松江:こんなバスなんて、もう合コンですよね。まあ色々と厳しいですけどね。

 

MC:厳しいけど彼らはおそらく小学校からずっと一緒だったからあんなに関係が悪そうに見えても実はみんなお互いのことをよく知っているっていう設定が面白いんだと思うんですよね。

 

松江:だからこそいつもは降りないところで降りてみたりするといいことがあったりするのかもしれませんね。もしかするとゴンドリーは最初は運転手のおばさんの視点に近いところにいたのかもしれないけど、最終的にあのヘッドフォンの彼だったのかもしれませんね。

 

オフレコな話もたくさん飛び出し、とても楽しいトークを披露してくれた両監督。今後もミシェル・ゴンドリーのようにふり幅の大きい新作を期待したい!

 

STORY

NYブロンクス。高校の学期も終わり、バスで帰宅する生徒たち。悪ガキ仲間の中心人物マイケルやビッグT、勘違い女のテレサ、女王様キャラのレイディ・チェン、孤高の男アレックスといったいつもの面子で車内はすでにお祭り騒ぎだ。他の乗客には嫌がらせをして追い出し、携帯の画像を見回しては大騒ぎをする。しかし、バスが進むにつれ、彼ら一人一人の内に秘めた個性と本音が見えてくる。本当のボク、知らなかった君、いつもの仲間・・・

 

監督・脚本:ミシェル・ゴンドリー(『エターナル・サンシャイン』『恋愛睡眠のすすめ』)      

出演:マイケル・ブロディ、テレサ・リン

2012年/アメリカ/カラー/ビスタ/ドルビーデジタル/103分    

原題:THE WE AND THE 

(C)2012Next Stop Production, LLC   

配給:熱帯美術館

 

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