東京国際映画祭『シージャック』のソーレン・マリンさん、トマス・ラドアープロデューサー 単独インタビュー

東京国際映画祭コンペティション作品『シージャック』のトマス・ラドアープロデューサー、俳優のソーレン・マリンに、アジアエンタメLIFEは単独インタビューさせていただきました。

『シージャック』は、インド洋沖でデンマークの商船がアフリカ系の海賊にジャックされる。本社は、遠く離れた海賊の心理を探りながら困難な交渉を始めるが、船員は徐々に疲弊していく…。多発する海賊事件を息の詰まるリアリズムで再現した、交渉術と人間心理を巡るサスペンスドラマ。

(左:トマス・ラドアーさん、右:ソーレン・マリンさん) 

監督のデビュー作の“R”(10)で刑務所の中の息詰まる人間関係を細かく描写したトビアス・リンホルム監督は、本作でも追い込まれた登場人物たちの心理を描き込むことに抜群の力量を発揮している。脚本家としてトーマス・ヴィンターベア監督の『光のほうへ』(10)と“The Hunt”(12)に参加しており、後者は今年のカンヌ国際映画祭でマッツ・ミケルセンに男優賞をもたらしている。長編監督2本目にして、早くもデンマークで最も次回作が期待される監督のひとりである。"

 

Q:この作品『シージャック』を作ろうと思った経緯は?

 

トマス・ラドアー:「カンヌ映画祭で監督のトビアス・リンホルムさんから、こういう映画(『シージャック』)を作りたいと思うのですがいかがですか?と言われオファーがありました。話を聞いてとても面白いと思ったので、早速やろうということになりました。1年かかって資金を集めまして、脚本を仕上げて撮影に入りました

 

 

Q:ソーレン・マリンさんは、日本でもドラマ(スーパードラマTV「キリング」)が放送されていますし、ソーレン・マリンさんのような人気の俳優をキャスティングでオファーすることは大変でしたか?

 

トマス・ラドアー:「正直言いまして、キャスティングにあたりまして、ソーレンが実際に出てくれるかどうかは、僕は心配でした。なぜならば、このような役(『シージャック』のCEO役)を彼はデンマークでも演じたことがなかったからです。キャスティングでの衣装合わせでスーツを着て、メガネをかけた姿を見て、あの役(CEO役)にはピッタリだと思いました」

 

 

Q:ソーレン・マリンさんは、このオファーを受けた時の気持ちは?

 

ソーレン・マリン:「”キリング”が日本で放送されていること知らなくて、僕は有名だとは夢にも思っていませんでしたので、そう言っていただけまして、本当に有難うございます。今回のピーターの役ですけれど、(脚本を)読んだ時に自分にピッタリだとは思いませんでした。監督からオファーが来たわけですけれど、彼が説得してくれた理由として、”自分を信じてくれ”と・・・そして、”君だったら出来ると思うし、やって欲しいと思う”と言ってくれたのです。それは何故かと言うと、これまでの自分のイメージとは違った役でしたが、すんなり”君だったらこの役を演じられる”と言ってくれたのです。敢えてイメージが違うからこそ、”君と僕と二人で世間に全く違うソーレン・マリンの一面を見て、こういうものがあるんだということを見せたい”と言ってくれました」

 

Q:撮影で苦労したことはありましたか?

 

トマス・ラドアー:「困難なことはありませんでした。実際ケニアのインド洋で撮影をしました。デンマークで撮影をしようか悩みましたが、結果的にケニアに行くことに決めました。それは結果的にらくなことでした。天候にも恵まれ、海も穏やかでした。困難とは言いませんが、チャレンジと言わせていただければ・・・セキュリティの問題でした。30人位の白人が一つの船に乗り、インド洋を航海しているということは、海賊たちの最高の標的になってしまうからです。僕達もシージャックにあってしまうと困るので、セキュリティは万全にしました」

 

Q:海賊は本当に存在し、多いのですか?

 

トマス・ラドアー:「今現状はどうかは把握していませんが、多分そうだと(海賊は存在するということ)思います」

 

記者:インド洋(モーリシャス)に旅したことがあるのですが、キレイな海でしたので、シージャックがあるとは思いもしませんでした。

 

トマス・ラドアー:「政治的なことで言えば貧困等が問題なのかと思います。この映画は政治的なことを描いているのではなく、人間ドラマというものを描きたかったのです」

 

 

Q:演じる上で苦労した点はありましたか?

 

ソーレン・マリン:「5,6ヶ月間、役に関してリサーチしました。監督と数え切れないくらい、脚本について打ち合わせをしました。撮影に入るまでには、ほぼ暗記して頭に入っていたので、脚本を捨ててもいいくらいに、よく分かっていました。それくらい脚本が体に染み付いていたので、監督は脚本に書いていない我々が見逃して見えていないものを撮影しようとということで、即興でいろいろ考えたりして、撮影したのです。撮影が始まり2,3日くらい経ってから、実際自分が役になりきっていることを実感できたのです。撮影はコペンハーゲンに実在する海運会社のオフィスを借りて行われました。朝、現場に行ってシャツを着てスーツを着てメガネをかけたら、彼になりきることが出来たので・・・それは仕事にとっていい意味でしたが、家族にとっては大変怒っていました。ストレス溜まって・・・。ピーターという役は、イラついている役でしたので、家に帰ってからも、そのような感じでした」

 

Q:身代金を渡すまでの期間が長かったからか・・・マリンさんの顔が痩せていくようにも見えたのですが、その当時は徐々に痩せて(やつれた)いったのでしょうか?

 

ソーレン・マリン:「ほとんど体重は減っていないと思います。そう(痩せて見えた)思っていただけるのであれば、多分、僕は役者として上手いからじゃない?(爆笑)それだけ役になりきっていたことが言えると思います。最初は健康そのもので、敏腕で順風満帆会社社長だったが、どんどんネゴシエーションしている間に、心を開いていく。そういう変化を演じたいと思いました」

 

Q:役ではなく、本当にシージャックに遭遇したら、身代金を渡すまで映画のように長期間交渉しますか?

 

ソーレン・マリン:「実際、僕がその立場なら、あれだけの期間は耐えられなかったと思います。これは映画ですし、こういった交渉はいかに人々に影響を及ぼすかの映画でしたので、あれだけ長期間の交渉にしたのです」

 

 

Q:交渉人のオマー役とのやりとりで、一瞬”その金額でお金を渡そうよ”と高額な身代金の要求に対して、早く片付けたいというようなセリフがありましたが、そこにはマリンさんの本音がポロリ出たようにも思えましたが?

 

ソーレン・マリン:「そのシーンだけですが、即興でやりました。オマーとのやり取りのシーンは、オマー役の俳優も常に現場にいて、彼の声だけ後で付け加えるのではなく、実際に電話で話すような形で、彼とのやり取りのシーンを撮りました。監督は即興でアドリブをやらせてくれたので、オマー役の俳優には、僕があのようなセリフを出すとは言わなかったのです。そこでセリフで蹴りをつけちゃおうというのは、彼の即興のリアクションでした」

 

Q:交渉に応じた時、相手からFAXでスマイルのイラストで”OK!”と送られてきたシーンがあり、一瞬だけ和らぐシーンがありましたが、あのスマイルのイラストを映画に取り入れようとした意図は?また、ソーレン・マリンさんは、その送られてきたスマイルを見た時の感想は?

 

トマス・ラドアー:「あれは実際にシージャック事件であったときに”スマイル”マークのFAXが届いたそうです。事実に基づいてやっていますから・・・。知らなかったら誰かのアイデアかと思えるけれど、緊迫した秘密の交渉でもユーモアにするセンスを持っているのです」

 

ソーレン・マリン:「ホッとできるのでしょうね。それまでは、すごいプレッシャーが続いていますからね」

 

Q:緊迫した役を演じて、やっと撮影が終わった瞬間は、どんな気持ちでしたか?

 

ソーレン・マリン:「もう、くたくたでした(笑)。長い休暇をとりたいと思いました。そして、妻もホッとしたようでした」(役に入り込み、家でもピーター役のように家族にも接してしまっていたので・・・と本音を暴露。)

 

Q:撮影中でのエピソードなどは?

 

ソーレン・マリン:「コックの奥さんとのやり取りのシーンは一日かかりました。コックの奥さんが”何を証拠にみんなが生存していると言えるの”といい追い詰められるシーンなのですが、あの女優さんもとても上手くて、ずっと泣いていたからかもしれませんが、自分も泣き出してしまって、答えられなくなってしまったのです。何度、取り直しても、自分は冷静沈着でいられなかったのです。すごく自分の感情移入しすぎてしまい、自分が泣いてて撮影がすすみませんでした」

 

Q:来日されて観光などは行かれましたか?

 

ソーレン・マリン:「新宿のパークハイアットのニューヨークバーに行き、キレイな夜景を見ました。お寿司が好きなので、”すきやばし次郎”に行きたいと思っています。ヨーロッパでは、まずネタを凍らしてしまうのです。バクテリアなどを殺してという工程で、解凍して寿司となるので、ちょっと味は・・・どうかな・・・(だから日本で生の寿司が食べたいという希望があった)」

(ここでお二人と通訳の方、記者などで、”すきやばし次郎”は日曜日は休みかも・・・日本橋のデパートに出店しているかも・・・と、明日、帰国してしまうソーレン・マリンさんに食べさせたいということで相談(交渉)する場面も。)

 

Q:ソーレン・マリンさんの次回作は?

 

ソーレン・マリン:「テレビシリーズのドラマが10エピソード放送が残っています。来年の5月に公開される映画があり、その作品では精神患者を演じています」

 

記者からの無茶ぶりで即効で決めポーズをとってくれたソーレン・マリンさん。地球を片手で持っているポーズは、ソーレン・マリンの柔軟でユーモアセンス、そして偉大さも見えたようにも思えた。ちなみに、お二人の好きな寿司は”まぐろ”だそうです。

 

(取材:野地 理絵)

 

東京国際映画祭 http://2012.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=13

(10/22 17:50~上映される)

 


 

Asiaent_Lifeをフォローしましょう

<人気記事>