「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2012」の長編部門(国際コンペティション)作品『沈黙の歌』 単独インタビュー

埼玉県川口市で開催されている「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2012」の長編部門(国際コンペティション)作品『沈黙の歌』が、16日(月)上映され、陳卓(チェン・ジュオ)監督と頼一梵(ライ・イファン)プロデューサーが単独インタビューに応えた。

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『沈黙の歌』は、運命に絡め取られた孤独な三人の姿を描く、中国の新時代ドラマ。中国湖南省の長江が流れる、ある街。聾唖の娘・ジンは、両親の離婚以来、心を閉ざしていた。警察幹部である父・ハオヤンは娘を愛せず、息子が欲しかった。父の恋人・メイは家を飛び出し、ただ温かな家庭を求めていた…。実話に基づき脚本を練り上げたという本作は、中国現代社会を背景に、人間の心のすれ違い、迷い、理想と現実とのギャップを描く。香港国際映画祭コンペティション部門で最高賞を受賞した、今アジアで最も注目すべき新人の一人、チェン・ジュオ監督長編デビュー作となる。

Q:今回の作品『沈黙の歌』は、今の中国現代社会を背景にした作品を、なぜ作ろうと思いましたか?

監督:映画でいろんなことを表現しようと思いましたが、自分の言いたいことをストレートに取り上げて表現したとすると公開していく中で、様々な障害にぶつかってしまうだろうと思いましたので、家庭という内容に絞って、家庭の中で存在している様々な問題を取り上げたのです。

 

記者:中国のブログWEBOなどでも、書き込み規制があったりしますので、よくここまで中国の触れていいギリギリのラインまで、映画で表現されたとビックリしました。(中国には検閲制度があり、その制度を通った作品。)

 

監督:(WEBOについて)やはり(中国は)監視されている世界なのです。その中で政府に対して不利になる発言をすると、すぐに削除されます。いろんな制限がかかってきます。こういう状況で、自分なりに工夫し、正面衝突を避けてまわり道をしてでも、自分の本当に言いたいことを言っていきたいと思います。

 

記者:作品の所々に、これって問題だという内容が出てきます。例えば、警察官という職業、近親相姦、聴覚障害者、離婚、一人っ子制度などを、一つの作品に盛りだくさんに表現していることが凄いと思いました。

 

監督:そうです!そのとおりです(笑)。

 

Q:作品の中で、船が浮かんでいるシーンがありますが、とても不思議であり、重要に思えるのですが?

監督:やはり、船はとても重要になります。最後の船が炎上するシーンは、遠景が工場建設中で、真ん中に揚子江があり、人と人との間を分ける川になります。船は人間性が美しく表現されているところです。同時に狩猟の手段・・・そこで魚を捕ったりするという両面性を持っています。最終的に主人公のジンが夢を見て、夢の中で船が燃えてしまうというのは、私自身の社会に対する悲観な態度が表れていると思います。

 

記者:船が3タイプ出てきますが、意味があるのでしょうか?

 

監督:実は、船が3タイプ出てきます。一番最初の船は傾いていて、その船の上をジンが歩いているシーン。これは、今歪んでいる人間性・社会現象と思うのです。古い船は温かい家庭だと思うのです。その古い船は、世間から隔離されているので、ジンと伯父との純粋な愛が生まれたのです。紙の船が最後に炎上しますが、か弱いものを表します。揚子江が家庭の中で凝縮した形が水槽で、古い船の凝縮されたものが紙の船なのです。それが、最後には壊れるのです。

 

Q:お父さん役以外は、全員素人の方をキャスティングされたそうですが、セリフが殆どなく演技が大事になってくると思うのですが、演技指導で苦労したことなどはありますか?

監督:セリフがないと物語が語れないとは思っていないのです。やはり、人の行動(動く演技)で、物語は語れると思うのです。自分自身が、大量の綺麗なセリフが書けないので、人の動きで表現したかったのです。キャスティングの時も、わざと素人を選び、その人が持っている素質を上手く引き出せば、十分魅力的になると思うのです。自分の役目は、その人が持っている素質を、どんどん引き出すことだと思います。

 

記者:お父さん役の方をキャスティングした意図は?

 

監督:お父さん役だけは、プロの俳優でないとダメだと思ったのです。いろんなことを表現しなければならないので、演技に対する要求もある程度ないといけないのです。この作品は、(セリフは)方言で撮ったのです。中国湖南省の方言を話せる俳優でないといけなかったのです。話せる俳優は限られてくるの・・・。地元の歌劇団へ足を運び、その歌劇団の俳優をキャスティングしました。彼(お父さん役の俳優)は、ドラマ出演が多いので、演技もドラマっぽいところがあるので、彼への演技指導が多かったのです。主役のジン役の方も素人で、表現の仕方がわからなかったのです。彼女(ジン役)にカメラを1台渡して、自分の部屋に引きこもり、毎日10分間カメラの前で演じ、その撮ったものを翌日カメラのクルーのみんなに見せることを半月続けて、やっと自然に演じれるようになったのです。

 

監督:主人公ジンとジンの父親とメイの3人でJENGAをしてて、1本引き抜くと崩れるシーンでは、ジンの父親が守るべき人は誰なのかをJENGAで表現したのです。(撮影秘話を暴露した。)

 

 

Q:最後に、今後の作品予定は?

プロデューサー:会社としては、多くの作品を手がけています。全てインディペンデンス系の作品です。九通店としては、デビューしたばかりの才能を持っている監督の作品です。

 

監督:次の作品は、作家とコラボして脚本を作ろうと思います。準備期間を要するので、2年間くらいの準備期間が必要になります。

 

記者:次回作の内容は?

 

監督:少年の犯罪を扱うような映画にしようと思います。やはり、今中国では青少年による犯罪が、年々多くなって、一つの社会現象になっているのです。

 

記者:やはり、(検閲制度があるため)凄い内容を取り上げますね!

 

監督:実は、監督になる前は、現代芸術を専攻していました。現代芸術に従事する人は、社会に対して批判的な視線を持っています。それを自分のユーモアで表現することも根本にはあるのです。

 

記者:今日の上映後の観客からは”難しかった!”と言う声が多かったです。しかし、”もう一度、観て理解してみたい”という方もいました。

 

監督:日本で多くの方に観て欲しいと思いますね。

上映後のQ&Aでは、女の子が煙草を吸うシーンが多いことや、ジンの箸の使い方が悪いことなど質問された。ひと昔前のように、家庭の中で煙草は控えるようにとか・・・箸の使い方を教えてくれるような家庭環境ではないということ。これは、一人っ子制度にも関連して言えることでもあるということ。中国では男の子が産まれると喜ばれるという古風な考え方が今でもあるということなどが、作品でも表現されている。検閲制度があるため、中国での公開では106分での上映となり、日本での上映はノーカット115分ということも明かされた。

 

 

次回の上演は、7月20日(金) 11時から予定されている。

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2012」公式HP http://www.skipcity-dcf.jp/index.html

 

 

チェン・ジュオ監督 プロフィール

中央美術学院にて建築を学び2003年に卒業。その後、大学院にてデジタルビデオを学ぶ。以来、現代アート、アニメーション、写真、実験ビデオなどの分野で活躍。中国国内や海外でも作品が展示されている。2010年に Beijing Tiger Entertainment & Media CO.,LTDを設立し、長編初監督作品となる本作の準備に着手。1年間の準備期間を経て、2011年6月に湖南省湘潭で撮影開始。2012年に完成させる。

 

(取材:野地 理絵)

 

 

 

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