映画『アリラン』キム・ギドク監督 来日記者会見

 

第12回東京フィルメックスの『アリラン』のオープニング上映に合わせまして、キム・ギドク監督が来日することになりました。3年もの間、映画界から離れていたキム・ギドク監督がついに復帰を果たしました。

 

2011年5月、カンヌ国際映画祭の<ある視点>部門の授賞式。キム・ギドク監督は、壇上で”アリラン”を歌っていた。本作『アリラン』が最優秀作品賞に輝き、世界の映画祭にキム・ギドクが復帰した瞬間。

映画『アリラン』

2012年3月、シアター・イメージフォーラム他にて全国順次公開

 

この数年間、キム・ギドクは何をしていたのか。その疑問に本作『アリラン』がこたえてくれる。『悲夢』の撮影中、自殺のシーンで一人の女優が危うく命を落とすような事故が起きた。その瞬間が忘れられず、自分を見失い人知れず泣くばかりの日々を送ったギドクは、韓国映画界と一切の接触を断ち、3年もの間、山にこもっていた。

一軒家の中で隠生活を送る自分自身の姿にカメラを向け、ここ数年間に自分に起きた出来事を語りだす。国内と国外での正反対の評価、業界からの過酷な仕打ち、沈黙するしかなかった映画作家としての悲痛な叫び。しかしそこに、第2のギドクが登場し突っ込み、そして第3のギドクがモニター越しにそれを見つめる。ギドク、お前は何者なのか。そしてお前は何をしたいのか。

自分の窮状さえも映画に変え、究極のセルフ・ドキュメンタリーを引っさげて、ギドクが映画界に戻ってきた。おかえり、ギドク。

 

 

監督・脚本・撮影・編集・音響・出演:キム・ギドク

 

『アリラン』

2012年3月、シアター・イメージフォーラム他にて全国順次公開

配給:クレストインターナショナル

(C)2011 KIM Ki-duk Film production.

<記者会見>

 

監督:こんばんは、キム・ギドクです。できれば礼儀を守るためにも、個別でお一人お一人インタビューをさせていただくところなのですが、スケジュールが限られていますので、お一人ずつインタビューができなくて団体という形になりすみません。この『アリラン』という作品はまさか映画祭で紹介されるということは思いもしない中で、スタートした作品です。完成してみたところ皆さんに観ていただくことができ、こういった場所で皆さんとお会いでき、インタビューも受けることができて、本当に感謝しています。短い時間ですが、皆さんのご質問に誠意を持ってお答えしたいと思います。

 

MC:19日の『アリラン』のオープニング上映では、チケットが発売後3分で売り切れるという状況で、上映後のQ&Aでは熱いエールが観客の皆さんから届けられたと思います。日本での初上映はいかがでしたか?

 

監督:この作品は映画にしようと思いがない中で作り始めた作品でした。自分の姿を撮っておこうと思って始めた作品でしたので、まさか映画祭で来るとは期待もしていなかったので、このように東京フィルメックスという素晴らしい映画祭のオープニングで、上映していただいて感謝しております。映画祭の関係者の皆様にも、観に来て下さった観客の方にも心から感謝しなければと思っております。

 

Q:健康維持することで気を付けていることは?

 

監督:私が健康そうに見えますか?もし私が健康そうに見えるのなら、本当に有難うございます。実際のところ私は体が弱い人間です。でもこのように日本に来れることができましたので、健康ということは言えますね。健康の秘訣があるとすれば、毎日映画一本の素材のモチーフを考える癖があるので、それでしょうかね。毎日映画一本のモチーフを書くようにして想像しているのでそれが自分にとっては大きな薬となっています。

 

Q:CGやアニメーションには興味がありますか?

 

監督:CGやアニメーションは好きですが、今は生きている者を撮りたいという考えからなかなか離れることができません。生きている人の物語の方に関心があります。

 

 

Q:ピストルを4発撃っていますが、街の中で3発、自分自身に1発、どういう意味があるのでしょうか?

 

監督:私だけではなくて、この場所にいる人も心の中に何らかの悩みを抱えていると思います。人々というのは誰かに不満を持っていたり、社会や国家や命の問題を抱えていたり、それぞれが持っている問題は様々だと思うのです。答えが見つけられない問いかけがあると思います。生きている中で心に傷ついていると思うのです。様々なことが重なって、人は抑圧されていると思います。そういった観念から抜け出したいという気持ちがありました。観念の塊に3発、そして自分自身に1発自分に向けて撃ちました。閉じ込めて縛られている自分自身にも1発撃ちました。

 

Q:ひとり3役演じていましたが、自分の影を登場させてますが、影という形で4番目の自分を登場させているのは何故ですか?

 

監督:物理的に見えているのが髪を縛っている一人、髪を解いている一人、そして二人を見ている一人。影は私の中の魂かもしれませんし、まだ自分自身がしらない自分かもしれません。そういう意味を込めて、影という登場人物を出してみました。

 

Q:キャップとTシャツがギドク監督のトレードマークでしたが、いつから今のファッションにされたのか?ポリシーは?

 

監督:服を一着買うと長く着るのです。もともと服を買うことは好きではないのです。韓国で3映画のシーンでは、この服を着て銃を撃つというシーンがあります。今何故この服を着ているのかとというと理由がはっきり答えられませんが、今必要なのはこの服かなと思います。私は帽子も20年くらい被っていましたが、最近は髪を伸ばしてこれを着て人々に会うと、皆さんが似合っていると言ってくれるので、満足してこれを着ています。

 

Q:オダギリジョーさんが、監督の小屋に遊びに行ったと聞きましたが?

 

監督:実は一度オダギリジョーさんが遊びに来ました。内緒でしたが言ってしまいました。プロデューサーと3人で来ました。オダギリさんも撮ってはいたのですが、編集の過程で入れないということになりました。この作品はオンリーワン私だけが出演するという作品でしたので、他の方を入れることができなかったので、いつの日にか別の作品でお見せできたらと思います。

 

Q:しばらく映画界から離れていましたが、それによって悟ったことや今まで気付かなかったがわかったことは?

 

監督:人はこうするべきではないかと思っていたのに、実行にうつせなかったことがあります。今回の映画の選択でした。あのような小屋に住むのも自然の中でのトイレや寒くても水を汲みにいくことなども初めてですし、人間として必要な生活が経験できました。得たものはたくさんあったと思います。悟ったことは『アリラン』を見ていただくと表現されていると思います。

 

Q:原始的な生活の中で、コーヒーを作ることの意図は?

 

監督:私は映画を撮らなかった3年間は、エスプレッソマシーンを作っていました。コーヒーを飲みませんしあまり好きではないのですが、映画を作る代わりにエスプレッソマシーンを作りたかったのです。実はこの3年間で4台作ったのです。作ることで自分の心を表現していました。

 

 

Q:作品として成立すると思ったきっかけは?

 

監督:『アリラン』という映画を撮りはじめたきっかけは、誰かに見せようと思ったのではなく、

自分自身の事を告白しようと思ったからなのです。殻にこもっているギドク、それを避難刺激するギドクも登場しますし、この映画の中で作られた人物ギドクが登場します。ギドクを理解しようということ。全く映画の製作とは関係ないことから始まったのです。ある日から不思議な思いになりました。自分は服を一着ずつ脱いでいる気分。そういう思いを感じながら、脱いでいるのだけれど私の中に積もり積もった気持ちが膨らみ、ギドク1,2,3がいて、影がいてキラーもいたのです。途中からは誰かに見せたとしても退屈しない作品にしようと思いました。ドキュメンタリーがドラマかファンタジーかわからない作品となりました。

 

Q:作品の編集で気を配ったことはありました?

 

監督:編集での重点は考えていませんでした。淡々と編集をこなしていました。『アリラン』も以前の作品も何かに導かれているように感じました。フォーカスを合わせるためにペットボトルを置いてみるのです。状況を見て撮れると思ったら、自分が戻りカメラに向かって話しかけたり泣いたりするので、普通の人が見たら変な人かと思われたかもしれません。映画を見ていると感じられにくいと思いますが、そういった作業は複雑でした。雪道を歩くシーンも遠くまであるいてしまうと、戻ってきてカメラを止めるとい滑稽な状況ですよね。

 

 

Q:毎日素材のモチーフを作るのが癖になっているということでしたが、3年間撮っていなかったときもそうだったのか?素材を貯めたものが今後映画化されていくのでしょうか?

 

監督:映画を撮っていなかった時も書き溜めていました。かなり貯まっているので、次に作品はそれを集めて何か撮れるかと思うのです。

 

 

Q:監督は天職だと思いますか?昔、絵を描いていたそうですが絵の表現というものは、監督にとってどういうものなのでしょうか?

 

監督:映画監督という仕事は天職かどうかはわかりませんが。今回『アリラン』を撮りながら自分自身驚いたことがありました。自分にとって苦しみの時間でしたが、そういう時間でさえもテクニックを入れようとしたりキャラクターを作ってみたと思ったりしたので、自分は映画監督なのだなと思いました。絵画は重要な影響を与えたものです。『アリラン』の中の絵も20年前に描いた絵なのです。考えてみれば画家になれなかったので、映画監督になったのかなと思いました。

 

監督:日本で初めてプロモーションをして、インタビューを受けたのは『魚と寝る女』という作品でした。そのあとも沢山の作品を持って日本を訪れたのです。今日来てくれた記者、評論家のなかにもインタビューをして頂き作品も見て紹介してくれた方もおります。製作で上手くいかなかった時も私の4本の作品に出資をしてくれた評論家の方々も今日いらっしゃってくれています。ずっと私の作品を応援してくれている方、今こんなことを話すのは、皆さんを家族のように思っているからです。私は韓国の記者の方のインタビューを受けてないのが数年になります。とにかく映画を作る中で、たくさんの方の助けをいただいたということを言いたかったのです。

 

 

監督:『アリラン』を作り終えたときに扉をひとつくぐり抜けたような気がしています。今映画産業が大企業化していると思います。メジャーな会社を通さないと上映できなという状況。メジャーな会社が素晴らしい作品を作れれば問題はないのです。ハリウッドのようなリメイクが多くなっています。大企業ではお金を稼がなければならないのでそうなるのだと思います。韓国でも関心を引くような作品は出てきていないのです。日本でもそうではないでしょうか。一昨日、行定監督に会ったときに、日本はオリジナル作品を作るのが難しく、原作がある作品シナリオが選ばれてしまうのです。韓国、日本だけでなく世界でも同じことが言えます。残念に思います。映画というものはある程度社会に影響を与えることができると思います。お金ではなくささやかですが心を込めて映画を作ってきました。韓国や日本、世界の監督が私と同じ気持ちを諦めずに持ち続けて欲しいと思います。有難うございます。

 

久しぶりの来日、そして映画を愛する気持ちとギドク監督が日本の映画界の方々への感謝の気持ち。3年間のブランクがあったからこそ『アリラン』という作品に巡り会うことができた。ギドク監督が自ら脚本・監督・主演・録音・編集とまさにギドク監督オンリーワンの作品。来年3月の日本での公開がとても待ち遠しく思いました。

 

(取材:野地 理絵)

 

 

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