東京国際映画祭コンペティション部門『もうひとりの息子』の監督、俳優のジュール・シトリュク単独インタビュー

24日(水)、東京国際映画祭コンペティション部門『もうひとりの息子』の監督・脚本のロレーヌ・レヴィ 、プロデューサーのヴィルジニー・ラコンブ、そして俳優のジュール・シトリュク に、単独インタビューさせていただきました。

兵役用健康検査の結果、両親の実子でないことを知ったイスラエル人の青年。出生の際の手違いが明らかになり、やがてイスラエルとパレスチナふたつの家庭のアイデンティティと信念とが大きく揺さぶられる事態に発展する。根深い憎しみからの解放を巡る感動のドラマ。(※クリックで画像拡大)

本作が3本目の長編作品となるレヴィ監督は、脚本家として豊富なキャリアを積んでいる。イスラエルとパレスチナ問題を背景にした物語を語る上で陥りがちなパ ターン化を避けるべく、イスラエル人やイスラエル在住パレスチナ人スタッフの意見を日々取り入れながら脚本は改訂され、全くオリジナルで感動的な家族の物 語が誕生した。舞台演出家の顔もある監督による役者の動かし方も的確である。主演のエマニュエル・ドゥヴォスは現在のフランスで最も尊敬を集める女優のひ とりであり、本作でも動揺する母性愛を絶妙に表現している。なお、イスラエル側の息子を演じるジュール・シトリュクは、子役時代に『ぼくセザール10歳半 1m39cm(03)に主演し来日も果たしており(2004年フランス映画祭)、成長した姿を見せている。

Q:この作品『もうひとりの息子』は、どのような経緯で作られたのですか?

 

レヴィ監督:「ある若い男性がプロデューサーのヴィルジニー・ラコンブさんに、7ページのシノプシス(あらすじ)を送ってきたのです。その男性はプロではなかったのですが、プロデューサーが直感で”これで映画を作るといい”と思ったそうです。そして、脚本のナタリー・サウジョンに連絡とり、脚本の第一ドラフトが仕上がったのです。そして私を監督として選んで下さったのです。撮影したいかどうかを聞かれたので、”是非、やりたいです”と言いました」

Q:キャステイングは、どのように決めたのでしょうか?

 

監督:「今回のキャステイングは特別でして、フランス、ベルギー人のキャストについては、過去の作品も知っていたので問題はありませんでした。他にイスラエル、パレスチナ人のキャストを見つけなければならないということになり、現場でイスラエルとパレスチナのキャステイングダイレクターが一人ずついまして、キャストを選びました」

Q:ジュールさんは、オファーを受けたときの気持ちは?

 

ジュール:「まず監督と会いました。そして、監督から脚本の内容を教えてもらい、すばらしい物語だと思いました。繊細で微妙なストーリーだと思いました。その後に監督から連絡があり、”この役をするとしたら受ける?”といわれアプローチされました。それで、すぐお受けしました。そして、すぐに自分の役に対する準備をしました」

 

記者:どのような準備をされたのですか?

 

ジュール:「自分の役の性格とかを自分の中に決めていくのです。それから、どんな過去の生活があるとか、家族との関係はどうなのか、友人との関係はこうなのか、こんなものが好きでその人のテイストはこんな感じでとか・・・監督ともいろいろ話をしまして、役作りをしました。技術的な準備もしました。イスラエルですので、ヘブライ語を話さなければなりませんし、アクセントもおかしくないかチェックしましたし、ギターや歌の練習もしました。このシチュエーションを学ぶわけです。普通の若い男性だったのが、ひどいニュースを聞いてヨセフ(役)の反応を考えたりしました」

 

Q:イスラエルとパレスチナ問題が背景にありますが・・・ロケ地はどこでされたのでしょうか?また、撮影をする点で苦労したことなどはありましたか?

 

監督:「スタジオ撮りや作られた背景で撮ったことはなく、全て現地撮りをしています。イスラエルとイスラエルのアラブ地区で撮りました。困難はいろいろありましたが、うまく撮影できました。アラブ地区を分ける壁のあしもとで夜撮影したときには、デリケートな感じでしたが、何とかうまくいきましたね。そして、現地の人で進んで撮影に加わってくれるような人は、積極的に協力していただきました。例えば、アラブ側の家族に会いにラブラという小さな村へ行き、ヨセフの腕を取り家まで案内してくれた女性は現地の素人なのです。たまたま会って話をしていたら、どうやら演技したい様子だったのでお願いしたのです。それから、ヨセフが丘を越えて歩いて行く場面では、羊飼いが登場しますが、あれは本当の羊飼いで素人の人です。撮影に参加したいという現地の人達が参加してくれました」

 

記者:そうなのですね。ちょっとお節介なおばさんでしたよね?

 

監督:「そうです(笑)。あのおばさんもすごく面白く、すごく自然体でカメラも怖がらないので、すばらしい演技ができたのです。羊飼いの方もヨセフに道を示すシーンでは、正確にかつゆっくりとグラフィックな映像にしたかったのですが、羊飼いの方は10回くらい撮りなおししたのですよ。多分、羊飼いの彼は”映画の人って頭がおかしいのではないか”と思っていたのじゃないかと思います(笑)」

 

記者:そんなエピソードがあった裏話が聞けてうれしいです。

 

監督:「この話は今までのインタビューでも誰にも話していない情報ですから(笑)」と裏話まで暴露。

 

Q:この作品は家族愛を描いていますけれど、子供がすり替わったことを知り、母親が本当の息子達を愛しい眼差しで接する。また、父親は子供がすり替わったことで認めたくないという葛藤の壁にぶち当たる。監督は母親、父親の心境を描く際に、どのようなことにこだわったのでしょうか?

 

監督:「女の人と男の人というのは、ある感情を前にして反応は違うと思います。女性の場合は自分の感情に素直な面があります。一方、男性は気持ちを表に出さず控えめで孤独でもあります。このような物語が起こった時に、女性の場合はもう一人息子が増えたと思えるのです。男性の場合は、息子を失ったと思ってしまうのです。母親はすぐ母性の愛情表現となります。父親は政治的な意識にとらわれてしまう。祖先から受け継いだものを伝えるべき息子がいなくなってしまったと・・・息子と思っていたのが実は敵に属していたと・・・そのような意識にとらわれてしまうのです。それに対して母親は、まずは息子だと感じるわけです」

 

Q:ジュールさんは、息子役を演じていて、もしも自分がヨセフと同じ立場だったらそのような行動をすると思いますか?

 

ジュール:「実は、私もそのように考えて役作りをしたのです。役を演じる時は、自分がその立場だったらそうするのかな?と思います。今回のヨセフ役は自分に似ていましたから、ちょうど思春期を越えた若者で、芸術家で夢み心地な役でもあり、役に自分自身を入れ込んでいます。実際には生きてみないとヨセフの立場はわかりませんが、特に感じたのは家族をどう見るかということ。自分の家族に対する愛情は変わらないと思いますが、家族が自分を本当に息子として見てくれるか・・・相手の気持ちを知りたいと思うんじゃないかな。実際の兄は自分をどのように受け入れてくれるか。そうなってくると自分自身も困難すると思いますね」

 

Q:最後のシーンのビーチで刺されて病院に運ばれ、兄とすり替わった同じ立場のヤシンが「家族が病院に向かっている」といわれて、ヨセフは「どっちの家族?」と言い、和らぐ場面がありますが、和ませるようにという理由で、あのシーンを作られたのでしょうか?

 

監督:「あの最後のシーンというのは、どういうシーンにしようかと決断するのが、非常に難しかったのです。実は、元々考えられていたシーンというのは別にあったのですが、私もあまり気に入らなくて・・・。あのシーンは撮影最後の日に撮ったのです。元々は病院で両親などみんなで集まるというシーンだったのですが、撮影をしているうちに、そぎ落としたものを作った方がよいと思い、若者のみのシーンにして、少し軽さを入れようかなと思ったのです。軽さが映画の真実を突いているし、若者二人の連盟が兄弟のように出来ていくというのが、この作品の真実なのかなと思います」

 

Q:ビーチでアイスクリームを売っていましたが、ヨセフとヤシンどちらがアイスクリームが売れると思いますか?

 

監督:「二人のうち、よりアイスクリームを売りたいという人が売れるでしょう。映画のなかではヤシンが小遣いがほしいということで、アイスクリームをより上手に売っているのですけれど、二人とも何かやりたいということがあれば、それをやりぬくだけの才能があるでしょう(笑)」

 

ジュール:「僕が思うには、二人で組んでヨセフが音楽を奏でて、ヤシンがアイスクリームを売っていく。二人でコンビを組んだら売れると思います(爆笑)」

 

 

8年前に子役で来日されたジュールが、青年になって再来日。大人のジュールの演技も注目です。インタビュー後は、みなさんが日本語で「ありがとう!」と笑顔に。

 

 

(取材:野地 理絵)


スタッフ

監督/脚本:ロレーヌ・レヴィ
脚本:ナタリー・ サウジョン
原案/脚本:ノアム・フィトゥッシ
プロデューサー:ヴィルジニー・ラコンブ
プロデューサー:ラファエル・ベルドゥゴ
撮影監督:エマニュエル・ソワイエ
編集:シルヴィー・ガドメール
音響:ジャン=ポール・ベルナール
音楽:ダファー・ヨーゼフ

 

キャスト

エマニュエル・ドゥヴォス
パスカル・エルベ
ジュール・シトリュク
マハディ・ダハビ
アリン・オマリ
カリファ・ナトゥール

 

 

東京国際映画祭 http://2012.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=21

 

上映→10/26 19:35

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